振動工具を取り扱う作業者に対して行わなければならない安全衛生教育の一つ。
多くの電動工具が振動工具に該当しているが、対象者で受講している人は多くない。
書面上で明らかに振動工具を使用することがわかる下請けの未受講を指摘されたことはないため、現場で重要視されている教育ではないと思われる。
振動工具取扱作業者
資格概要
資格区分:安全衛生教育
受講時間:4時間以上
受講要件:満18歳以上
難易度:受講すれば取得可能
対象工具
対象となる振動工具の一例。
1.ピストン内蔵工具 …… 削岩機、ピックハンマー、はつりハンマー
2.エンジン内蔵工具 …… エンジンカッター、刈払機
4.締付工具 …… インパクトレンチ
5.回転工具 …… 振動ドリル、ハンマードリル、インパクトドリル
6.往復動工具 …… ジグソー
思うこと
その1
振動工具を長期間使用するうえで起こり得る、振動障害についての啓蒙的な講習。
指先に起こるレイノー現象、手のしびれや関節が曲がらなくなる運動器障害、騒音による難聴等、肉体的に痛みを伴うだとか痛々しそうな話が苦手なため受講中、鳥肌全開だった。
刃物系の工具とは異なり、現場ですぐに目に見えてわかる労災に繋がるわけではないのがポイント。
長年勤めあげてきたベテランの職人が将来的に抱え得る障害が振動障害。
長年時間をかけて、障害に繋がっていく可能性があるため、労災と認められにくい。
話をしてくれた講師の人が実際に運動器障害を患っており、指の関節が曲がらなくなっていた。
その2
必要な保護具が耳覆い、耳栓、保護メガネ、防塵マスク、振動手袋と、だいぶ面倒。
「1日の振動暴露量」や作業の制限時間である「振動暴露限界時間」の算出方法位は知っておいて損はないと思う。「ノモグラムの算定表」も扱えるようになると、算出が楽になる。
自前の工具であれば、一度算出を行い、工具のケース内にメモを貼っておけば、作業時間の目安にもなる。
その3
現場で使用頻度の高いディスクグラインダーも振動工具ではある。
しかし、この資格に該当するのは砥石(円盤)の直径が150㎜以上のもののみ。
汎用品の直径は100㎜のため、ほとんどのディスクグラインダーは該当しない。
砥石の直径100㎜のディスクグラインダーを使用する場合は、受講不要。
その4
耳栓、保護メガネ、防塵マスクの装着はよく見かけるが、振動手袋を見た覚えがない。
周りにも振動手袋の使用についてそれとなく聞いてみたのだが、手の皮が厚いから問題ないという回答。ユーモラスな職人に恵まれている。
そんなに目くじら立てる必要もないのだと思われる。
その5
振動障害に関する特殊健康診断は、常時振動工具を使用している作業者が受ける。
常時使用しているわけでもない場合は、受ける必要はない。
しかし、なかなか労災と判断されにくい障害でもあるということなので、気になることがあるのであれば受けてみると良いと思う。
自分のことは自分にしかわからない。
その6
振動工具取扱作業者の講習を受ける義務があるのかどうかを、最近よく聞かれる。
特別教育のカテゴリに入っていないため、混乱している人が多いのだと思う。
あと、廃止やら改正やらで通達が見づらい。
昭和58年 基発258号 「チェーンソー以外の振動工具取扱者に対する振動障害防止のための安全衛生教育実施要綱」を見てみる。
1.目的
チェーンソー以外の振動工具取扱者に対して、労働安全衛生法に基づく特別の教育に準じた安全衛生教育を実施し、振動障害の防止のために必要な知識を付与することを目的とする。
とあるので、基本的には特別教育と同様の教育(扱い)をしようねと言っている。
2.実施主体
昭和50年10月20日付け基発第608号(廃止)→平成21年7月10日付け基発第0710第2号(改正)に定めるチェーンソー以外の振動工具の取扱業務を行う事業者とする。
実施するのは、振動工具を取り扱う事業者ですよと言っている。
特別教育に準じた教育と言っているので、特別教育の扱いについて安衛法 第59条3を見てみる。
3 事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。
特別教育は「~行わなければならない」 という文言で記されているため、安全衛生教育も「行わなければならない。」という扱い。
雑感まとめ
自分で振動工具を使用してみて思ったが、「振動暴露限界時間」が来る前に腕や腰が疲れる。
一人で何時間もある限界時間まで作業を連続して行うことなんてできないし、やらない。
必要なら人数を入れるか、本職にお願いするというのが、現実的だと思う。
個人的には、職長教育や安全衛生責任者等も安全衛生教育の範疇でありながら、ほとんどの人が当然のように受けているのに、同じ安全衛生教育(通達による教育)のカテゴリにある振動工具の取扱に関する教育について、何故「受ける義務があるのか?」となるのかが不思議。