職長・安全衛生責任者
職長教育は、建設業、製造業、電気業、ガス業、自動車整備業、機械修理業において必要な教育。
以下の内容は建設業に焦点を当てている。
職長・安全衛生責任者教育は、もともと「職長教育」と「安全衛生責任者教育」があり、現在では「職長・安全衛生責任者教育」として統合された安全衛生教育。
2006年に講習内容がアップデートされており、事務処理を行う際にしばしば上司や取引先の年配の方と話がかみ合わなくなる厄介な教育の一つ。
1度の講習で2つまとめて受講修了証がもらえるお得な教育だが、ややこしいので「職長教育」「安全衛生責任者教育」の2つに分けて雑感を書いていく。
職長(初任時教育)
資格概要
資格区分: 安全衛生教育(通達による教育)
受講日数:2日間
受講要件:制限なし、誰でも受講可能
関連法規:安衛法 第60条、施行令 第19条、安衛則 第40条
難易度:受講すれば取得可能
免除:各職種の特級技能士(安衛法 第60条に基づく職長教育を省略できる)
内容
その1 職長教育
現場で労働者を指揮監督する人が、指揮監督する立場に就くこととなったとき受ける教育。
事業者が行わなければならない安全衛生教育の一つ。
私は建災防(建設業労働災害防止協会)にて受講。
教育は講義形式で進み、途中、他の受講者とグループを作りグループディスカッション形式で、想定現場における根本的な問題の分析、リスク低減措置等を話し合った。
その2 受講が必要な人
本来、教育が制度化されている会社であれば、現場で経験を積み職長を任される立場になった者が受けると思われる。
職長になるタイミングは会社によってさまざまだが、次の場合は受けた方が良い。
- まっとうな会社で昇進し、職長を任されることが決まった場合
- 経験年数1年未満の新人を現場に一人で放置する場合
- 一人作業・一人親方でほかに労働者がいない場合
安衛法で職長の配置が義務付けられているため、作業中の現場には必ず一人は職長を置かなければならない(直接指揮監督する=作業する人がいる場合は現場に常駐)。
中小企業においては教育が制度化されておらず、現場に職長がいないことが多々ある。
自社で教育しきれないのであれば、さっさと講習機関に放り込んで現場でやらなければならない雑多なことを覚えてきてもらった方が、教える側と教えられる側の双方が楽。
ただし、新人を職長に仕立て上げる場合、忘れてはならないのは、職長という立場は有事の際に事業者責任を問われる立場だということ。本当に職長を任せてよい人物かどうかは、会社の判断による。
「一人親方でほかに労働者はいない」という場合であっても、「一人であるならば職長であり労働者であるため、職長資格が必要」と指摘を受けることがあるので、教育を受けておいた方が無難。
新人へのフォローが制度化している会社なら、現場での経験を積ませてから受けた方が、確実に身になると思う。
現場で実務をこなしていれば否応なしに頭に入る内容だが、現場経験なしで職長教育を受けると、現場経験があることを前提に講習が進むため、内容についていけないなんてこともある。
その3 実務
職長の仕事は、作業の指揮・監督、危険性・有害性への措置・対策とされている。
- 作業方法の決定
- 作業員の配置
- 作業の指揮・監督
- 作業設備及び作業場所の点検、保守管理
- 異常時・災害時における措置
- 危険性・有害性の調査、その結果に基づく措置
- その他、監督者として行うべき労働災害防止活動
実際にどんなことをやるのかというと、
- 朝一で現場状態の確認
- 職人と雑談交じりにその日の作業内容の確認・段取り
- 他職と雑談交じりに取り合いの確認
- KYシートの記入
- 朝礼で、人員、作業内容、安全注意事項、立入禁止箇所、搬入の有無の発表
- 自分の作業をしながら、他の作業を確認
- 昼礼で翌日の作業の打ち合わせ
- 作業終了後の片づけ、翌日の段取り
といった感じ。
その4 事務
職長教育では、下記の事務的な内容も教育に含まれている。
- 店社安全衛生計画
- 工事(作業所)安全衛生計画
- 作業計画書(施工要領書)
- 作業手順書(リスクアセスメント含む)
- 送り出し教育
- 新規入場者教育
【店社安全衛生計画書】
店社=会社が作成する安全衛生計画書。
「店社安全衛生計画書なんて無いよ」と従業員100人以上の会社でも言われたりする。
大抵「そんなものはない」と言い張る担当者が知らないだけで、会社としてはきちんと作成し労基署へ提出している場合が多い。
毎年、年度の始めや終わりに会社の安全衛生計画を立て、店社安全衛生計画書を作成しているはずなので、1年に1回作ったものを安全書類の中に入れて提出すればよい。
作り方は「職長・安全衛生責任者教育」の講習テキストに載っている。
が、そもそも見本として載っているひな形からして、わかりづらい。
書式に縛りはなく、「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針」の中に、「これだけ書いておけばいい」という項目が書いてあるので、それを抜粋してA4用紙に箇条書きで書くのも有りだと思う。
コンパクトCOHSMS(コスモス)なんてものが、2019年に出てたらしいので、中小企業はそちらを参考にすると良いかも知れない。
【工事安全衛生計画書】
工事現場ごとに作成する安全衛生計画書のこと。
どの時期にどの工種作業があるか、持込機械、電動工具、現場に関係する担当者、協力業者等を記入する。
また、災害が予想される作業ごとにリスクアセスメントを行い、それを記入する。
店社安全衛生計画書との違いは、次のような感じ。(あくまでイメージ)
「リスクアセスメントなんて作ったことない。元請けから求められたこともない」
上司含め年配の方によく言われる台詞の一つ。
職長教育にリスクアセスメントに関する教育が追加されたのは2006年のため、それ以前に職長教育を受けた人はいまだにその存在を知らない。なんとなく知ってはいるが、触れるのが面倒くさくて放置している。あわよくば元請けまたは便利に使える下っ端に書類を作成させようとしている。
リスクアセスメントのやり方以前に、リスクアセスメント教育を受けていないということは、教育要件を満たしていないことになるので、追加教育を受けてほしいのが本音。
講習でどんなものか教えてくれるし、作り方の参考になる資料なども教えてくれる。
【作業員名簿】
2020年10月より労務安全関係書類だった「作業員名簿」が、施工体制台帳に組み込まれた。
「作業員名簿」には職長を記載する欄があるため、忘れずに記載する必要がある。
施工体制台帳に組み込まれたことにより、元請けに提出した作業員名簿は最低でも法律で定められた5年間は保存されることになる。
グリーンサイト、ビルディー等でデータ化され始めているため、記録の整合性が取りやすくなってきている。そろそろ下手な偽造(一人親方を自社の社員として作業員名簿に入れ込む)等で誤魔化すなどという時代錯誤な考えはそろそろやめた方が良いと思う。
安全衛生責任者(初任時教育)
資格概要
資格区分: 安全衛生教育(通達による教育)
受講日数:職長教育+2時間
受講要件:制限なし、誰でも受講可能
関連法規:安衛法 第16条、安衛則 第19条(安衛法15条・30条)
難易度:受講すれば取得可能
免除:なし
内容
その1 安全衛生責任者
常時50人以上の規模の建設現場で、事業主の代理として現場の安全を担う責任者。
元請けが選任するのが「統括安全衛生責任者」なのに対して、関係請負人(1次下請や2次下請等)が選任するのが「安全衛生責任者」。
統括安全衛生責任者や再下請負の安全衛生責任者との連絡調整を行う。
その2 受講が必要な人
現在は「 職長・安全衛生責任者教育」として一つの教育になっているため、職長教育を受ける必要があるタイミングで受けるとちょうどよい。
中には「職長」は持っているが「安全衛生責任者」は持っていないという人が存在する。
2001年に職長教育講習時に、同時に安全衛生責任者教育を受けられるようになった。
つまり、2001年以前に職長教育を受けた人は、安全衛生責任者教育を受けていない。
修了証も「職長教育」の四文字しか書かれていないため、誤魔化しがきかない。
「施工体制台帳」すら埋められないのは厳しいので教育を受け直してほしいのだが、なかなか耳を貸してくれない世代でもある。
その3 実務
災害防止協議会(安全衛生協議会)の出席。
元請けからの通達を関係請負人に伝達する等がある。
現場単位で見た場合、1社につき1人選任する必要がある。
基本的には、元請が開く災防協に1次下請負の担当者が出席し、伝達事項をFAXやメールで流すという場合が多い。
その4 事務
施工体制台帳の再下請負通知書を作成する際に、
「主任技術者と安全衛生責任者を同じ人にしないとダメ?」
と、事務方によく聞かれる質問だが、同じにしなければならないわけではない。
主任技術者・職長・安全衛生責任者を一人にまとめておいた方が、効率がいいだけ。
むしろ、主任技術者が何かあったときに動けない場合は役割を分けた方がいい。
- 主任技術者
…… 品質、技術上の指導監督者。下請けはほぼ常駐の義務はない。
※専任とは常駐という意味ではない。
- 安全衛生責任者
…… 統括安全衛生責任者との連絡調整。常駐義務の明示はない。
- 職長
…… 作業上の指導監督者。作業中の労働者を直接指導監督する者。
つまり、常駐義務がある。
安全衛生責任者を誰にするのかは、現場において安全衛生協議会や災防協等がいつ開催されるかにもよる。
それに対応でき、かつ再下請負の安全衛生責任者と速やかに連絡の取れる者を安全衛生責任者としておいた方が良い。
建設業においては、職長が安全衛生責任者を兼務することも多く、講習もわざわざ職長・安全衛生責任者教育としてまとめられているので、安全衛生責任者も現場にいる人間が兼務した方が良い、というニュアンスなのだと思う。
安全衛生責任者は、職長と同じく有事の際に事業者責任を問われる立場となる。
万が一、事故が起きた際に、現場に安全衛生責任者が居ないというようなことは避けるべきだと思う。
雑感まとめ
私の会社では新人が一番最初に取るべき入門資格という扱いだった。
これは業種によって変わる。会社で規定やマニュアル・教育計画を策定しているであれば、「○年実務経験を積ませたら、一人で現場に放り出しますよ。」という趣旨の文言があると思うので、どのタイミングで受けるかはそれを参考にすると良い。
人手不足の会社なら入社または現場への異動決定後、さっさと取得しておいた方が、あとあと面倒が無くて良い。
私の場合は初めての現場から職長相当の立場で現場に放り込まれることになり、現場経験3ヶ月目にしてようやく受講した。
玉掛けがどういうものかも認識しない初心者の状態で職長教育を受けたため、クレーン搬入を想定したグループディスカッションでは置物状態。周りがリードしてくれる話の内容にひたすら頷いているだけだった。講師は当然、経験者が受講しているものとして講義を進めていくため、話の内容も半分以上頭に入っていなかった。
職長・安全衛生教育を受ける(あるいは受けさせる)のであれば、せめて一つ以上(または一定期間以上)現場を経験してからの受講をお勧めする。
2006年以前に「職長教育」「職長・安全衛生教育」を受けた人は取得し直すことをお勧めしたい。
給与や昇給
職長になると給与は上がるのか?
キャリアアップシステムの技能者レベル4相当の職長クラスはレベル1・2・3よりも給与が上だったという結果が出たとのこと。
ちなみに、私が職長教育を受けた年=職長として現場に行き始めた年なので昇給無し。
(昇給異動の上、初心者にもかかわらず職長だったので)会社によってそれぞれだと思われる。
私の会社では、新人のうちに受講してしまうのであまりピンと来ないが、まともに経験を積ませてくれる会社なら、頑張っている若手に責任感を与えたいとか、役割を与えたいとか、昇給させたいという場合にはちょうどいい講習なのだと思う。